Deep Desire

【第9章】再会が呼び込むもの

<Vol.2 伏流>

 男は長い脚を組み、頬杖をつき、豪奢な金の巻き毛を指に絡めながら口元に微笑を浮かべていた。
 彼がそのようにして「客」を待ち始め、もうかなりの時間が経っている。
 列席した配下の者たちは、ただただ無言で佇んでいた。不平不満など言えるわけがない。彼らの王座についている男が、何一つ文句を言わずにいるのだから。
 だが、そろそろ制限時間が近づいていることも事実であった。
 間もなく、夕刻の鐘が鳴るだろう。その喧《かまびす》しい時報には、場の支配者たる主も「客」を諦めるに違いない。彼は自分勝手この上ないが、都市が定めた秩序と規則に対しては従順なのだ。
「さて……」
 森閑とした室内に、落ち着いたトーンの声が反響する。
 思案しているようであり、また、既に意を決したようでもある。
 楽しんでいるようであり、また、立腹しているようでもある。
 男の声は、どちらにも取れる響きを孕んでいた。ゆえに、居並んだ者たちは皆、いつものように何と声をかけてよいものか悩むのだ。下手なことを口にしたら最後、男の剣の露となる。
「どうしたものかねぇ……」
 ひとり言のように彼が呟いたちょうどそのとき、扉が片方のみ開かれた。
 精巧に彫られた、対になっている絵柄のうち、太陽神が描かれた方の扉であった。報告を聞く前に、男はその扉が開かれたことを吉報と思い、ふふっ、と吐息のような笑みを漏らす。
「カオル様、ご報告申し上げます」
「申せ」
「はっ。聖都よりルキス将軍、ご来城」
 草原を駆け抜ける疾風のごとく、ざわめきが部屋の中を伝播していく。
 それらを一切無視し、巻き毛の男、カオルは小さく首を縦に振った。
「通せ」
「はっ。――開扉《かいひ》せよ!」
 報告をしたばかりの男は扉に控えた女たちに号を発し、自らは臣下たちと肩を並べた。
 襞《ひだ》が多く、灯りがなくとも光沢を発する服に身を包んだ女2人が、左右両方の扉を手前に引く。無作法な声を上げもせずに開いた扉の向こう側、彼らは待ち望んだ「客」をその目に留めた。
 多くの者が同時に息を飲む。なんと美しき男であるか、と。
 彼が赤絨毯の上を滑るように歩くと、情景としては何も変わっていない部屋の中がやおら華やいでいく。それは錯覚なのだが、現にそうであったとしてもおかしくないと思わせることが不思議であった。
「久しね、将軍」
 雰囲気に飲まれていないのは、その場ではカオルだけであった。
 ルキスはカオルの真正面で立ち止まり、冷酷さを予見させる、鋭くも澄んだ青い双眸で左右に控えた者たちを一瞥した。「金の将軍」と恐れられる彼の視線は時に刃となって対峙する者を怯えさせるが、誰もがルキスに見惚れるばかりで萎縮する気配はない。
 カオルに至っては、足元の赤絨毯よりもさらに鮮烈な印象を残す赤い瞳を、愉しそうに歪めてみせた。
「随分と待たされたよ」
「ご健勝そうで何よりだ、カオル」
 詫びることなく挨拶を述べたルキスは、肩から下がる布を片手で払いのける。
 無礼な態度ではあるが、それは座ったまま客を迎えているカオルにしても同じことだった。
「都市長でいいよ、将軍。ウィングールへようこそ」
 カオルの口調は、緩慢の一歩手前である。
 短かった髪は胸に届くほど伸びてはいるが、話し方は彼が20代の頃と何ら変わっていない。……ルキスの神経に障る。
 金の美貌の主は、社交辞令の笑みを浮かべ、首を小さく傾げた。
「それで、私をここに呼んだ理由は?」
「そんな不機嫌な顔をしないで欲しいね」
「不機嫌?」
「まぁ、いいや。君はそうやって笑っている方がきれいだからね。――たまには旧交を温めるのもいいかな、って僕は思って呼んだんだけど」
 髪を弄びながらカオルは上目遣いにルキスを見てきた。
 どんな返答がなされるのかを楽しみにしている。瞳が、主張していた。子供のように。
 彼は形ばかりの笑みで応えた。
「生憎と私は忙《せわ》しい身。あなたの遊びには付き合ってられない」
 にべもなく言うと、会釈もせずに彼は踵を返す。
 カオルのことだから、何かしら含むところがあるのかもしれない。頭の中ではそう理解しているが、その含むところとやらを探り出す時間は惜しかった。
 だが、ルキスの短慮を嘲笑うように発せられたウィングール都市長の笑い声がすぐさま耳に届き、彼は立ち去る機会を逸した。
「あははは、ルキス、忙しいのかい?」
 半身で顧みるルキスの顔は無表情だ。それを平然と見つめるどころか笑い飛ばすことのできる者は、ラリフ広しと言えどもカオル以外には存在しまい。
 その証拠に、列席した者たちは皆、目を丸くしながらどうしてよいのかもわからずに困り果てている。
 そこかしこで生まれる雑多な囁き。
 一蹴したのは、原因を作った部屋の主の一声だ。
「そうだね、忙しいだろうね。……『剣技』も『魔道』も一筋縄じゃいかないだろうから」
 瞬きもせずにカオルを見つめるルキスの指が、一拍置いてから腰の剣へと伸びていく。
 中性的な顔立ちをした美貌の将軍が剣の使い手であることは、『賢者』宙城炎上事件より、その場にいる誰もが知っていた。緊迫感が空気の温度を急激に下げ、騒がしくなっていた空間を沈黙で染め上げる。
「剣を抜くのかい?」
 唯一の発言者となったカオルは、多くの動揺を喜ぶような声音で問い掛ける。余裕に満ちた態度は、長い脚を組替える動作にも表れた。
 挑発とも受け取れかねない台詞を言ってのけた彼は、さらに続ける。
「その位置からだと、僕が剣を抜きさる前に勝敗は決しているだろうね。君の剣は、速いから。……いや、僕の反応がとっても遅いだろうから、って答えの方が正しいかなぁ? ……どっちにしても、僕には容赦なんてしないだろうね、君の計画には僕なんて、いてもいなくても同じなんだから」
 細く白い指で柄を握り締め、ルキスはカオルの、血の色と等しい瞳を凝視した。
「……あなたはどこまで知っているのだ?」
 ウィングールの都市長は、身体を揺すらせて笑うと、目を閉じる。
「どこまで? さぁ、どこまでだろうね」
「……カオル」
「全部かもしれないし、一部分かもしれない。でも、安心してくれ、将軍。僕はね、自分の領域さえ侵されなかったら何がどうなっても構わないんだから。たとえ……」
「たとえ?」
「ラリフが滅んだとしても」
 何の衒《てら》いもないように不吉な予言を口端に乗せ、カオルは片方の目だけ開けてルキスを直視してきた。
「たとえ話だよ、金の将軍」
 目を逸らさずにカオルを見つめた結果、ルキスは剣から手を離した。
 この場で彼を殺すことは造作もないことではあるが、それをしたら最後、カオルがどの程度の情報を把握しているのかが完全にわからなくなってしまう。
 飄々としたこの都市長を甘く見た結果、張り巡らされた罠に気づくこともなく失脚していった者たちを彼は知っている。見た目以上に手強い、狡猾なカオルを敵に回すのは得策ではない。自分が負けることはないだろうが、不必要なダメージを負うことは馬鹿げている。
「……そうだな。たまには、あなたと赤酒《ワイン》の入った杯を傾けるのもいいだろう」
「せっかくだから、ラリファーヌを飲もう。年代ものが残ってる」
 弾むような口調で言って、カオルは初めて立ち上がった。
 ルキスもそれなりに背が高いが、彼はルキスよりも頭半分ほど高い。ただ、実際の身長などとは無関係に、カオルはルキスを見下しているような節がある。
 そう思えてしまうのは、南の国にいる、自分が嫌悪する男に似た雰囲気を持っているからなのかもしれないが。
「では、行こうか、将軍。今までのものは全て紛い物だった、これこそが真実に違いない!というラリファーヌをご馳走して差し上げるよ」
 自信漲る様子の都市長に、相槌を打ったルキスは歩きかけていた足を止める。
 そういえば、と部屋に入ってから感じていた違和感の正体を知り、彼は尋ねてみた。――何気なく。
「あなたが昼夜問わずに傍に置いていらっしゃるご賢妹はいかがされた?」
 大したことはない質問のつもりであった。がしかし、ルキスの読みは甘かったようだ。問われた方は、劇的な変化を顔に出したのである。
 眉根を寄せ、二重瞼の瞳には危険な光を溢れさせる。豹変、という言葉が最も似つかわしい。
「……席を外していてね」
 嘘と真実を巧みに織り交ぜる男らしくない、取り繕いに失敗した発言だ。
 それまで会話の主導権を握られていた仕返しとばかりに、ルキスは“そこ”を突付くことにした。
「ほう、いらっしゃらないのか。それは残念だ」
「残念?」
「ご賢妹の麗容、久しぶりにこの目で拝せれば、と思っていたのでね」
 カオルはさらに険しい顔つきとなる。
「……将軍。わかってるとは思うけれど、妹に手を出したら、僕は何をするかわからないからね」
「私も命が惜しい。自分から愚行に走るつもりはない」
 自分から、という部分に力を入れる。故意に。
 すると、苛烈な気を放っていた都市長は、すぐに表情を明るくさせた。どうやら、ルキスが意図したのとは違う意味で解釈したらしい。
「そうか。ならば大丈夫。妹は、僕以外の誰にも目を向けないから……僕たちは、お互いしか必要としないし、お互いだけを愛しているんだ。ふふ、安心したよ」
 狂恋と呼ぶに相応しい、肉親への倒錯的な恋慕。
 ルキスが、イスエラの宰相、シレフィアンと似ているカオルを恐れずにいるわけは、その狂った想いを抱いているからに違いない。
 彼は金の巻き毛をくるくると指先でいじる年長者を見やった。
 誤ったものを内に秘めている点で、ルキスとカオルは似た者同士なのである。――そんな風に呼ばれたくないと思いはするが。



「報告はすべて理解した。指示があるまで下がっているように」
 簡潔に下された命に従い、頭を垂れる部下たちを副都市長は複雑な面持ちで見ている。――ジェフェライトとキーファがギガを経って2日目のことだ。
 定刻どおりに起きた彼にもたらされたのは、殺人事件の報告であった。
 1人の商売女の死骸が城下を流れる川から発見されたという。
 それだけ聞けば、ギガにおいてはさして珍しい事件ではない。享楽・賭け事は騒動と親戚関係にあり、殺傷事件は実にありふれた話なのである。ギガの治安は決して悪くはないが、それでも、そういった事は人が集まる場では起こりうる、皆無とすることはできない。
 ギガの統治を補佐するようになった最初の頃、副都市長にキーファが繰り返し言っていたことがある。
「何事にも完璧ってもんは存在しねぇんだよ」
 何に対して明言したのかはわからないが、都市を治めることに言及するならば、キーファの発言はまさしく正鵠を射たものだった。
 安全性を考えて規制を強化すれば、店々の営業範囲は狭められ、売上が減少する。それは、都市に入ってくる税金の減少に直結した。
 だからといって、売上のことを一に考えると、治安は悪化し、結果的に人足は鈍って売上が減少するという皮肉な結果を生み出しもする。
 まるで、両端に重しを載せた天秤を見ているようだった。どちらか一方でも重ければ釣りあいが取れない。
 どうするべきか、と頭を抱えていた彼に、キーファが
「なら、どっちも今までどおりでいいじゃねぇか。取りこぼしを1つずつ片付けていきゃ済むだろう?」
と言った言葉そのものが、現在のギガの市政方針である。
 都市城《シティキャッスル》内の賭場も実は、キーファの遊び場を手近に作るという意外にちゃんとした役目を担っている。
 城内の賭場は、相場は高いが不正などは一切行われないことが売りだ。公平さに加え、時折、都市城ということで客同士もそれなりに上品に振舞ってくれる。出入りする女たちも上等。賭場に入ってくる金銭ははっきり言って多くないが、遠方から来る客に、ギガという都市の安全性を主張する手段として都市城《シティキャッスル》内の賭場が活用されていた。賭場に出入りする客たちがギガ都市長の格好の餌となっていることは、都市内では公然とした秘密である。
 その、安全性を謳っている賭場に出入りしていた女が事件の被害者であった。
 幸いなことに、ここしばらく、彼女は城内の賭場に出入りしていなかった。……城内の賭場には。
 副都市長は彼女を、数週間前にギガの客室で見かけている。もちろん、誰が中に入れたかは論じるに値しない。
 着目すべきは、キーファリーディングと褥《しとね》を共にした女が物言わぬ身になった、という事実である。
 朝食を摂る間も惜しんで報告を聞くうちに、副都市長は己の、勘という名の炯眼《けいがん》を忌々しく思った。嫌な予感ほど当たってくれる――悪態をつきたい気分だ。
 死んだ女の身体に残された傷はたった2つ。
 手馴れた者の仕業に違いません、との私見を彼の部下は付け加えたが、無言で聞いていた副都市長が気に留めた部分はその2つの傷の形であった。
 深い直線の傷が胸の上についていたという。刃物での傷とのことだが、2つは並行してつけられていたそうだ。
 並行した2本の裂傷――サラレヤーナで散々見てきた、そして、『剣技』の民がギガで亡くなっていた際につけられていたものと同じ傷。
 確信するには情報が少ないが、憶測する限りでは舌打ちせずにはいられない。
「イスエラ……」
 『剣技』のジェフェライトを追ってきたのかどうかはわからないが、間違いなくイスエラの者がギガに潜伏している……!
「偶然か、必然か」
 ひとりごちて、副都市長は部屋の中を歩き出す。
 キーファが病床に臥した、と発表したのは、つい昨日のことだ。
 信頼できる部下数名にキーファの不在を告げ、ギガ内には嘘をつくことにしたのである。その方が、キーファとハルカ、2人揃って姿が見えないことの説明も容易であるし、城下の各組合との折衝や交渉もやりやすいからだ。
 その結果、翌日にはキーファと昵魂《じっこん》だった女の亡骸が川に浮かんだのである。
 タイミングを見計らったかどうかはわかりかねるが、何かが闇の中で蠢いている気配は感じ取れる。
「どう出るか」
 自問して、彼は方策を練る。
 なるべくならば短期決戦で行きたいところだ。被害者が少ないうちに、という理由ではなかった。
 同じような事態が続けば――キーファの周囲の者が姿を消して行けば――、最終的に、キーファにおけるギガ統治に良い影響を及ぼすとは思えない。それが、理由。
「……好き勝手にさせるものか」
 都市長の代理として彼はそんなひとり言を口にしたわけではなかった。
 ギガという都市への愛着と、それを培ってきた者たちとの思い出が、彼を奮い立たせている。
「キーファがいようがいまいが、僕が返り討ちにしてくれる」
「キーファはいないのか?」
 予期せぬところから予期せぬ声が降って湧いた。
 驚くことさえ一瞬遅れ、副都市長は目を瞬かせる。
「それにしては、城内の警備が厳しかったな」
 聞きなれた声だというのに、彼は懐から短剣を取り出して鞘を投げ捨てた。
 白刃が窓から差し込む光に反射し、天井に眩い多角形を描く。それを仰視してから後、現れた青年は目だけを副都市長に向けてきたのだ。
「……なんだよ、その過剰反応は」
 微かに掠れた声音は固い。
 茶色の双眸など、内心の困惑を浮かべている。
 事情説明もなしに取った対応を口に出さずに詫びながら、副都市長は構えを解かぬまま唇を湿らせた。
「……ラグレクト、不躾で申し訳ないが、こちらにも事情があってね……説明はするから、とりあえずお願いを聞いてくれないか?」
「お願い? 何だよ」
 怪訝そうな返答に、副都市長がさらりと言う。
「君が本物のラグレクト・ゼクティだという証拠を提示してほしい」
 あくまで、さらりと。
「本物だって証拠? ……この髪と目の色じゃだめなのか?」
「それじゃだめだよ、ラグレクト。なぜならば、『魔道』であることをもって君だと主張することを僕は認めない。逆は、可能だけれども」
「……厄介なことになってる?」
「ちょっとね」
 ラグレクトはため息混じりに副都市長の要求に答えた。
「お前がそう言うんだったら、本当に厄介なことなんだろうな、サクヤ」
 副都市長の碧の瞳が一瞬だけ大きく見開かれ、元の大きさに戻ったときには彼がまとっていた殺気も霧散していた。
 膠着状態に終止符が打たれたことを感じ取って、ラグレクトが投げ捨てられた鞘を拾う。謝罪を彼が口にするより早く、気にするなとばかりにラグレクトが彼にそれを手渡してきた。
「ありがとう。……その名前を呼ばれたのも、えらい久しぶりだね」
 苦笑して受け取ると、黒髪の青年は少しだけ笑う。
「お前が呼ぶな、って言ってるからだろう。ま、こういうときに役には立つな」
「正しい使い方じゃないと思うけど」
 頷きながら言い返し、副都市長サクヤは椅子に座りなおした。手近にあった椅子を手にとり、本来とは逆向きに座ったラグレクトは背もたれに両腕を置いて一言発する。
「何があった?」
 集約された言葉はわかりやすく簡潔であったが、あまりにも漠然としすぎていた。
 質問はたった1つなのに、回答は複数ある。サクヤは、赤い頭を左右に振った。
「順番に行こう、ラグレクト」
「そんなに色々あったのか?」
「僕にとっては、ね。ラグレクト、君はいつギガに着いた?」
「半日前だ。城内に転移できなかったお陰で、ここに忍び込むまでやたらと時間がかかったよ」
 『魔道』の転移は、空間と空間のほころびを繋ぐものだとサクヤは聞いていた。
 説明してくれたのは他でもない、眼前にいる『魔道』の王子である。
 空間のほころびが生まれる場所は一定ではなく、都市城内には見つけにくいと彼は言っていた。ほころびそのものが無かったり、小さすぎて見つけづらいこともあるという。その眼力は魔道の能力の高さに依存しているそうだ。
 『魔道』の第1王子たる彼が城内に転移できなかったのはこれが初めてではないが、稀有なことである。
「でも、忍び込めたんだね? 僕の部屋まで」
「時間かかったけどな」
「じゃあ、さらに警備を強化しないと」
「……どういうことだ?」
「こっちの話。半日前、ね……じゃあ、まずは、不在者の名前とその理由から説明しようか」
「名前? 説明?」
「そう。簡単に言えば、ハルカと『賢者』の王女様がウィングールへ向かってね、それをキーファとジェフェライト殿が追ってる」
 ラグレクトは2、3回瞬きをした。
 どうも、言われている内容を理解しきれていないようだ。
「……簡単すぎる。えっと、もっと詳しく説明してくれないか? なんで、ハルカがウィングールへ戻った? テスィカはギガに残っているはずじゃなかったのか? キーファとジェフェライトは一緒に行動してるのか?」
「だから、順番に説明するって言っただろう? つまり……」
 言いかけたサクヤとラグレクトは同時に視線を扉へ移した。正しくは、扉の向こう、廊下へ。
 絹を裂くような女の悲鳴が響き渡っている。
 立ち上がった彼らを待つように、次いで、男の絶叫。
「ラグレクト!」
「わかってる。話は後、だろう!?」
 どちらともなく、蹶然《けつぜん》と立ち上がり、彼らは揃って廊下へと飛び出した。


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