Deep Desire

【第6章】 金色の戦慄

<Vol.1 思惟>

 地面を感じた瞬間に、テスィカはよろけた。
 反射的に体勢を整えようと慌てて近くの壁に手をついたため、幸いにも転倒だけは免れた。
「なんだ……」
 背後からオルドレットの声が聞こえてくる。
 何を言っているのか確認することも忘れ、テスィカは真正面を見つめたままで言葉を失っていた。エリスも絶句している。
「なんだ……これは……」
 オルドレットだけがその言葉を呪文のように繰り返し繰り返し唱えていた。
 通路の先まで、道しるべのように人が倒れていた。
 現実とは一線を画した光景で、にわかには信じがたい。
 目が太陽に慣れていないため――先ほどまでいた『魔道』の宙城は夜であった。時間の流れが違うと聞いてはいても、視覚の変化にはすぐに対応できるはずがなく――、テスィカは瞬きを繰り返す。
 テスィカが手をついた壁とは反対側、一定間隔にある窓に嵌めこまれた格子の隙間から注がれる夕暮れ時の陽光が眩しい。
 それが、床一面を血の色に見せているのだと思えるほどに鮮やかな色で回廊に差し込んでくる。
 だが、嗅覚が、視界の限りを埋め尽くす色が何によってもたらされたものなのかを「錯覚するな」と命じてきた。
 ……夥《おびただ》しい血を流し、横たわった幾つもの骸《むくろ》が現実のものであることは、充満した血の匂いで間違えようもなかった。
「どうして……」
 テスィカは混乱した。
 エリスが『剣技』の宙城へ向っているのは、ジェフェライトに何かあったためだと思い込んでいた。『剣技』に、ではなく、ジェフェライトに。
 だから、転移した先にこのような光景が広がっているであろうことなど予期していなかった。覚悟していなかった。していようはずがなかった。
 猛烈な嘔吐感に襲われ、手をついた壁にもたれかかる。背後で、オルドレットが堪えきれずに吐いていることを察知し、自分にもこみ上げてくるものがあった。
「……じょ……」
 不意に、誰かの呟きが3人の耳元へ届く。
 それは、聞き取れたのが奇跡なほどに小さいものだが、不思議なことに聞き逃さなかった。
 エリスが素早く周囲を見渡し、通路の奥へ向かって歩き出す。エリスがどのような表情をしているのか、見ることは適わないが、彼女が自分よりもしっかりとした足取りで歩き出したことだけはテスィカにもわかった。
 テスィカは唾を飲み込み、エリスの後を追おうとした。
 背後のオルドレットにどう声をかけていいものか迷ったが、エリスはテスィカたちからほんの数十歩離れたところでしゃがみこんだため、テスィカはオルドレットに何の声もかけず彼女の元へ行った。
「ワールカ!」
 知っている者であったのだろう、エリスは倒れていた『剣技』の少女を抱き起こし、名を呼んでいる。
 覗きこむようにして血まみれの『剣技』を見下ろしたテスィカは、息を飲んだ。
 その少女に片腕はなく、額から目の下まで大きく刀傷が走っていたのだ。――痛々しい。
 むごい有様に、吐き気がぶり返す。それを精神的に押さえ込んで、彼女は『剣技』の王女と抱き起こされた少女をちらりちらりと盗み見る。
「しっかりしろ、ワールカ! 大丈夫だ、助かる。大丈夫だから、しっかりするんだ!」
 エリスが叫ぶ。
(嘘だ)
 テスィカは口に出さなかったが、エリスの言葉が嘘だとすぐに見破った。
(助からない)
 少女の死相は濃い。自分のように『賢者』の力で傷を塞いだとしても拭い去ることができぬほど、死相が濃い。
 エリスが、気づかぬはずはない。
「……エ…………ス……」
「私はここだ。ここにいる! だから、だから、頼む、しっかりしてくれ」
 気丈なエリスの声が震え、涙ぐんだものに変わる。
 テスィカの目頭も熱くなる。
 ――不意に蘇る、記憶。
“お姉さま、生き残って”
 胸に大好きな赤い花を飾ったように、血にまみれた妹の姿。
 記憶の再生を思わせる、同じやりとり。
 エリスが叫ぶ。
「ルキスなのか?! お前をこんな姿にしたのは、ルキスなのか!」
 いつそのような情報を仕入れたのか、そんな瑣末的な疑問よりもテスィカが気になったのは、『剣技』の王女の言葉そのもの。
 自分がかつて口にしたのと違わぬ言葉そのもの。
 感情もおそらくは、同じもの。
(……また……)
 テスィカの中で憤りの炎が踊る。
(……また、ルキス、貴様の仕業なのか!)
「ワールカ、お前をこんな姿にしたのはルキスなんだな!」
 もう、エリスは「大丈夫」だとも「助かる」とも「しっかりしろ」とも言わなくなった。その代わり、しつこいくらい少女に問う。
 死の影を振り払うことも無く、少女は唇を微かに動かした。慌ててエリスが少女の口元に耳を寄せたが、果たして言葉が聞けたかどうか、疑わしい。
 立つ位置を変え、テスィカがもう一度少女を見つめたとき――もう、少女の茶色い双眸は宙のただ一点を見つめていた。
 動くことなく。
 ただただ一点を。
「ワールカ……!」
 無論、返事はない。返ってこないことなどわかっているのだ、エリスも。
 それでも、2、3回名前を呼んだのは、きっと気持ちに整理をつけるためだ。
 自分がそうであったのと同じように。
 やがてエリスは、『剣技』の少女を通路にそっと下ろし、瞼を閉じさせた。触れる指先は悲しみのためか怒りのためか大きく揺れていた。
 口元に耳をよせたときについたのか、彼女の頬には血がべっとりと付着している。
 それを拭うことなくテスィカと目を合わせず、『剣技』の王女は怒りを吐き出した。
「おのれ、ルキス……許さない……」
 エリスはおもむろに通路の奥へ走りだす。
 その先にルキスがいるのか、テスィカにはわからない。
 だが、テスィカは一呼吸してから彼女の後姿を追った。
(ルキス……)
 心中で自分の復讐相手を思い起こし、彼女は問うた。
(『剣技』も、『賢者』と同じ末路を辿らせる気か?!)
 『賢者』宙城が燃え落ちてから、何度も心の中で思った。
 なぜ我が一族だったのか、と。
 なぜ『賢者』でなければならなかったのか、と。
 なぜ、『剣技』でも『魔道』でもなかったのか、と。
 ――けれども、『剣技』の惨状を目の当たりにして心の内に浮かび上がった言葉は今までのものとは違う。
(ルキス、お前の思うとおりにはさせない――『剣技』まで同じことにはさせない、絶対に)
 他族のことを気にかけるまでの余裕などないのに、何がそこまで自分を動かしているのか、テスィカにはわからない。
 わからなくても……気持ちは、足は、エリスの後を追うのだった。



 テスィカたちと時を同じくして『剣技』に転移してきた者が2人いる。
 ラグレクトとジェフェライトだ。
 彼らは、テスィカたちのいた場所からわずか2階上の回廊に転移していた。もちろん、本人たちはそれほど近くに『魔道』宙城へ行ったはずの王女たちがいるなど、知る由もないのだが。
 自分たちが宙城の中に転移したことに気づいたとき、2人の王子はどちらも驚愕し、呆然とした。
 宙城城内そのものへの転移というのは、おいそれとできるわけではない。できて、宙城を支えるように共に浮かぶ城周辺の草原地帯や岩盤地帯への転移ぐらいだ。
 そのために宙城に転移門が存在するのだと、神殿都市フライから西方都市ギガへ向う直前、ジェフェライトはラグレクトから聞いていた。
 それが、気づいてみれば宙城の回廊の中に佇んでいたのである。
 族長たちの張る防御壁《ホールド》が弱まっている。『剣技』宙城内へ魔道の転移を許すくらいに。
 『剣技』の剣がないのである、防御壁を安定させるためには族長を初めとした多くの『剣技』の民が心を1つにしなければならない。防御壁が弱まっているということは――城内はそれほど混乱しているのだ。
 呆然としていたのは彼らだけであって、突然現れた人影に、『剣技』の兵は一瞬驚きはしたもののすぐに彼らを取り囲んだ。
 だがしかし、2人の王子が我に返る前に戦いは未然に防がれた。取り囲んだ『剣技』のうちの1人が、眼前に立つ人物が自族の第1王子だと気づいたからである。
「ジェフェライト様……」
 目を潤ませながら男は歩みより、片膝をついた。
「よくぞ、よくぞご無事で……!」
 そして、先ほど鞘に収めた剣を、ジェフェライトの前にかざす。
 『剣技』での、王族に対する略礼である。
 ようやく、ジェフェライトは自分がどこにいるのかというのを実感でき、身体を引きながら傍らに立つラグレクトの身体を彼らに見えるよう、引っ張り出した。
「こちらにいらっしゃる『魔道』の王子、ラグレクトに助けていただきました」
 ……聖都から脱してきたのは自力でもなければラグレクトの助けによるものでもなかったが、最初から説明する時間も惜しく、それは割愛する。
 ラグレクトは意を汲んでくれたのか、黙っていた。
「それよりも、我が城内にルキスが侵入したとの報を耳にしました。族長は?」
 略礼を解き、男は顔を挙げた。
「ルキスは転移門より我が宙城へ侵入してまいりました……」
「転移門から?!」
 報告が途中だとわかっていながら、ジェフェライトはラグレクトと共に口を揃えてそれを遮る。
 『剣技』の民は大きく頷く。
「……やられたな」
 ラグレクトが舌打ちしながら呟いた。
(『剣技』の剣か……)
 ジェフェライトは、聖都に『剣技』の剣を残してきてしまった。『剣技』の剣を利用して駆け引きの道具に使うことは想像していた。が、まさか、『剣技』の剣を聖都から『剣技』への転移門を開く道具に使うことは考えてもいなかったのである。
 そのような使い方をするのであれば、そもそもジェフェライトを人質とした意味がない。また、最初に手に入れたとき実行することもできたはずなのだ。
 今さら『剣技』を武力でもって陥《》としにくる理由はわからなかったが、そもそも、そのように可能性を排除しかけた頃に攻めることこそが目的であったのかもしれない。
(迂闊《うかつ》だった……)
 聖都の転移門の大きさでは、1度に転移できる人数は多くて4人から5人くらい。
 ルキスは4年前、何隻もの飛船に聖都兵を乗せ、かなり大掛かりに『賢者』を攻撃した。そのときの強い印象が誰の脳裏にも――特に3族の脳裏に――焼き付いている。
 そういった意識まで利用したのか、転移門からの侵入は完全に裏をかかれた。
「……それで、敵は何名ですか?」
 動揺を悟られないようおっとりとした口調を崩さずに彼は聞き返す。
「2名です。ルキスと、それから、おそらく聖都兵と思われる女が1名」
「女性の方はティヴィアですか?」
 ジェフェライトは確認のつもりで訊ねたが、兵は首を横に振った。
「わかりません。男の方は、剣さばき、身につけたもの、それと……」
「それと?」
「金の髪に女人のごとき美貌との報告が……。族長はルキスに間違いない、と」
 そこでジェフェライトは、父親のことについて聞いてないことに気づいた。
「それで、族長は?」
 防御壁が薄れていたことから察していた答えがすぐに返ってくる。
「ルキスの元へ」
「……ならば、私も向わなければなるまい。ルキスたちはどこに!?」
 先ほどまで報告していた男に傍ら、ジェフェライトとはさほど年齢が変わらないであろう青年が答えた。
「ルキスは回廊を一回りし、再び転移門の部屋へ向かっているとの報告が届いてございます」
「回廊を一回りして?」
「はっ」
 何かを探しているのか?
 行動に疑問を持ちはしたものの、とりあえずは転移門のある部屋へ行けばわかると彼は結論を出した。
 そして、告げる。
「わかりました。私は転移門へ向います。あなたがたは『魔道』よりいらっしゃった私の客人を別室へお連れしてください」
「おい」
 『剣技』の兵たちよりも先にラグレクトが言い返す。
 ジェフェライトの肩に手を置いて。
「失礼のないようにお願いします」と、無視してジェフェライトは臣下に告げた。
「おい、聞いてるのか、ジェフェライト!」
 彼は非難の篭った声をあげ、身体ごとジェフェライトを振り向かせる。
「俺だけ傍観者を決め込め、と?」
「あなたはここへ私を連れてきてくれた。それだけで十分です。他族のあなたに、これ以上迷惑はかけられない」
「何寝ぼけたこと言ってるんだ。お前、昼過ぎまで戦ってたんだろう!」
 それはお互い様だ、とジェフェライトは思う。
 ……いいや、自分よりもあなたの方が疲労は濃いに違いはずだ、とも。
「あなたは昨日まで1週間もかけて眠っていた。目覚めてすぐ、フライからギガまで私を連れて転移し、そして“不和の者”との戦いに力を使い、この宙城まで転移を果たした。……あなたには、休む間が必要です」
「本気で言ってるのか?」
「冗談に聞こえますか?」
 雰囲気を和らげようと、ジェフェライトは微笑んだ。
 目を丸くし、ラグレクトがじいっとジェフェライトを見つめる。
 そして、ラグレクトも微笑んだ。
 だが。
「……この、馬鹿野郎!」
 返ってきたのは罵声であり、『魔道』の王子は笑顔のままでジェフェライトの胸倉を掴んだ。
「王子!」
 周囲の者が蹶然《けつぜん》とし、剣の柄に手をかけた。
 当然の反応なのだが、そんなことにお構いもせず、ラグレクトが声をあげる。ジェフェライトの顔に唾が飛んできた。
「誰に言ってるんだ、誰に! ――俺は、『魔道』を使えるんだぞ!」
「知っていますよ。だから……」
「わかってるなら、俺も連れていけ。役に立つはずだ」
「な……」
 ジェフェライトは言葉に詰まった。
 彼は何を言っているのだろう? 思考が中断する。
 やっと口を開いたとき、ジェフェライトは無意識に笑顔を形作ることをやめていた。びっくりしたために、忘れてしまっていた。
「何をおっしゃるのですか? これは、ルキスから叩きつけられた『剣技』への挑戦状です。ルキスと『剣技』の戦いなのです……他族のあなたを連れて行けるわけがないでしょう?」
「この宙城に来た時点で俺は既に関わっているんだ」
「ルキスに姿を見られていない今であれば、シラを切りとおせばいいでしょう。既にあなたを巻き込んでしまったのかもしれないが、『魔道』まで巻き込むわけにはいきません」
 ラグレクトの眉間に、より深い皺が刻まれる。
「……俺を引っ張っていくのは『剣技』としての誇りを傷つけるのか?」
 その言葉にジェフェライトの中の何かが弾けた。
 胸倉を掴む手首を強く抑え、彼は戦いのときのように険しい表情を作る。
「本気で言っているのですか?」
「冗談で言っているように聞こえたか?」
 ラグレクトの手を払いのけて、ジェフェライトは臣下の手前なのも忘れてとうとう声を張り上げた。
「私がそんな誇りを掲げているがために、あなたを遠ざけようとしたなんてお思いなのですか?」
「違うなら、連れて行けっ!」
「巻き込みたくないと言ってるでしょう!」
「もう、だいぶ昔に巻き込まれてるんだよ、俺は! ……ルキスの飛船からテスィカを連れ去ったのは、俺だ」
 初耳だったが、それでもジェフェライトは引かなかった。
 引いてはいけない。そう思った。
 正直な気持ち、ラグレクトの力は、魔道は魅力的だった。接近戦を主とする自分にとって、ラグレクトが魔道でフォローしてくれたときは戦いやすいことを知っていたから。
 それでも、頼ってはいけないと彼は己を叱責する。
 彼は『魔道』なのだ。
 彼は『魔道』の王子なのだ。
 何かあったとき、どうする?
 王族とは、王子とは、その存在だけで一族の柱なのだ、希望なのだ。
 弟を失ったときにジェフェライトはそれを強く実感した。
 たとえ出奔した王子といえど、命の危険にさらすわけにはいかない。
 『魔道』の民が、あのときの自分と同じ感情を抱くようなことがあっては絶対にならない……巻き込んでは、いけない。
「できません。――早く、私の客人をご案内せよ!」
「お前は、俺のどこを見てるんだ!」
 ――虚を突かれた。
 ジェフェライトは頭を掴まれ、そして、ラグレクトと額を合わせる形になった。
 至近距離で、怒りを湛えた茶色の双眸がある。
 自分と同じ、茶色い双眸。
「お前にとって俺は、ただの『魔道』の王子か?」
「ラグレクト……」
「俺は、『魔道』の王子なんて位も、お前の『剣技』王子って肩書きもどうでもいいんだ! お前をただ単に助けたい、そう思ってる。いけないか?」
 ……どうして責められなくちゃいけない?
 ジェフェライトも言い返す。
「ならば言わせてください! 私だって、あなたのことを『魔道』の王子だから巻き込んじゃいけない、と思っているだけじゃありません。あなただからですよ!」
「俺は……」
「人の話は最後まで聞いてください、私がまだ話しているんです! いいですか、私は、あなたに何かあったときに『魔道』一族に申し訳が立たないと思ってます。でも、本当は『魔道』なんか関係なく――」
 そこでジェフェライトは口をつぐむ。
(本当は『魔道』なんかと関係なく?)
 ラグレクトが自然と突きあわせていた額を離す。
「関係なく……なんだよ……」
「……関係なく……あなたが傷つくのが耐えられなくて……」
 言ってからジェフェライトは自己の矛盾にようやく気づいた。
 さっきまで、彼が『魔道』の王子だから巻き込めないと思っていた。
 けれども、今、勢いに任せて口から出た言葉は違った。そうじゃなかった。
「お前……」
 ラグレクトが、目を逸らす。
「そういうのは、女に言う台詞だろう」
 言ったジェフェライトも、顔が赤くなるのがわかった。
「私も、そう、思います」
「ったく……怒る気力が失せた」
 いかにも脱力したような言い方で言って、ラグレクトはジェフェライトから少しだけ離れた。
「お前の素直な性格には脱帽する……どんなヤツでもお前の前じゃ降参するだろうな」
「降参?」
「……ラグレクト・ゼクティとしてではなく、ただのラグレクトとして頼みたい。お前を助けたい。お前を心配させるような無茶はしないと誓う……これでもダメか? ダメと言われれば、仕方ないが諦める」
 実にさばさばした表情で言うラグレクト。
「ダメか、ジェフェライト」
 ジェフェライトは大きくため息をついた。
(降参する? ……それはこっちの台詞です)
 彼は、自分のことを「ジェフェライト」と呼んだ。
 思い起こさせた。
 互いのことを名で呼んでいることを。
 敬称をつけず、名前で呼び合っていることを。
(そんな風に言われて、断れるわけがないでしょう)
 本当は、フライにいるときから頼りにしているのだから……。
(『魔道』の民よ、私を許したまえ)
「ご助力を……」
 そこまで口にして、ジェフェライトは言い直した。
「……助けてください、ラグレクト」
 ジェフェライトにそう言わせた青年は、苦笑を返した。
「最初からそう言えよ、馬鹿」


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