Deep Desire

【第3章】 迷走する『剣技』

<Vol.0>

 曇天。
 女たちは枯れ木を集め、頭上を見上げて囁きあう。
「とうとう今日こそ、降り出しそうね」
「これだけ寒いと、降るでしょうよ」
「今年は雪季《せっき》が早いと思いません?」
「まだ、雪越えの支度などしておりませんのに」
「足りなくなっては一大事、話はそれくらいにしておいて、早く集めてしまいましょう」
「そうそう、アーティクル様のお客さまもいらっしゃることですし」
 女たちは純白の衣を身につけていたが、それはかなりの長さがあるようで、自分自身で衣を抱えこんでいた。話しながら、女たちは手早く衣の所々を結びはじめる。するとそれは、たちまち枯れ木を入れる袋に変わった。
 左手で袋の入り口を持ち、右手で枯れ木を集める。どの女の指先も、まるで腫れているかのように真っ赤である。いや、指先だけではない。
 頬も、鼻も、耳も、露出している部分は赤くなっている。ただ一箇所、唇を除いては。
 紫色になった唇から、漏れるように吐き出される息。
 その白さに負けぬ「白」を空に見出し、1人の少女が声を上げた。
「何、雪が降り出しましたか?」
 腰を伸ばし、たしなめるように言った女に、少女が笑んで空を指差す。
「いえ、違います。ほら、あれでございます」
 女たちが一斉に、屈むのをやめて空を見つめた。
「おや、『剣技』の……」
 真っ白の城壁が、少女たちの目に映る。
 『剣技』の宙城《ちゅうじょう》が空の彼方に見えていた。
 未だそれは、空に在る点にすぎないが、彼女たちにとっては長くも厳しい雪の季節の到来を知らせるものであった。


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