もしもレヴァリスとフォルマティオが同じ世界で出会ってしまったら……「砂漠の月編」

風間あきこ様@【晴れた朝も雨の夜も】から頂きモノ

 鮮やかなほど青く冴えた月に照らされた砂漠は、まるで淡い昼の光の中にいるように明るい。砂塵の中の僅かな硝石がキラキラと月の光を跳ね返して、まるで冷たい氷の砂丘のようだ。大地は急激に熱を奪われ、体を覆ったマントの裾をはためかせる風は冷たい。小高い砂丘の上に立ち、周囲を見回しながらフォルマティオは小さく溜息をついた。
 ――何処だ……。
 焦燥だけが体の中に降り積もっていく。この半月、オアシスを起点にしながら毎日砂漠を彷徨い探している。だが、何を探しているのかすら、分からない。だが、自分が何かを探し、それを探し出さなければ生きては居れないだろうということだけははっきりと分かっていた。
 ――何処だ…!
 月明かりの下に、生きているものの影はない。ただ砂の巻きあがる音と、巻き上げられた砂の硝石が煌く淡い風だけがフォルマティオを包んだ。
 諦め、踵を返して馬を繋いだオアシスに帰ろうとしたその時、砂塵の向こう側、流砂の流れる先に黒髪を見つけた。
 人だ――そう思うより先に、何かに惹かれるように、足はその黒髪に向かって駆け出していた。

 もうあと数歩でたどり着く、その距離になってはじめてフォルマティオは躊躇した。確かに目の前に横たわっているのは人だ。おそらくは女だろう。だが、その横顔は禍々しいほどに美しい。
 ――魔、か。
 深い海で船人を誘い込むサイレンの乙女よろしく、この砂漠にもやはり魔は住んでいる。それは時に醜悪な人獣の姿を見せ、時にこの世のものとは思えぬほどの美しい女の姿を見せる。まるでこの砂漠の苛烈な昼と凍える夜の化身のように。
 フォルマティオは足を止め、じっと横たわる人影を見つめた。青い月の下で砂漠の煌きに包まれて横たわる横顔は白く、その雪花石膏の頬を縁取る黒髪は濡れたように乱れ、とぐろを巻いていた。首から下を砂に埋め、僅かずつ、注意深く見つめなければ分からないほど僅かずつ、その人影は砂漠の流砂の中に沈みこんでいる。
 ――美しい女だ。
 微かに砂の縁にかかっていた柔らかな胸元の盛り上がりが、しだいに砂の下に隠れていく。もうしばらく何もせずにこうして見つめていれば、流砂に飲み込まれ、ここに女が横たわっていたという事実さえ消えうせてしまうだろう。ただ、黙って見つめていればいい。そうすれば、何もなかったことになる。
 黒髪が一房、砂の奥に沈んだ。
 頬に暗い影を落とす長い睫毛は、ピクリとも動かない。生きているのか、死んでいるのかさえ分からない、美しい女。
 また一房、黒髪が砂の下に沈む。
 はじめてフォルマティオは我に返った。そして慌てて沈み込んでいく体を抱き上げ、流砂の牙の届かない場所に横たえた。
 触れた肌の僅かな温もりが、すくなくとも命のある存在であることを証明する。ピクリとも動かない体は弛緩し、乱れた黒髪が体を戒めるように白い肌に纏わりつく。
 心のどこかが、ギシリと軋んだ。
 鮮烈な銀色のイメージが網膜を貫き、傷を負った右目の奥に痛みさえ残して消えた。
 ――知っている。確かに、俺は知っているのだ。だが、それは『何』だ?
 捉えることの出来なかった銀色のイメージが、フォルマティオの焦燥を募らせた。

「迷い人――か」
 耳を打つ羅紗のような声が、ふとフォルマティオを引き戻した。目の前に闇があった。いつの間に目覚めたのかそっと青い砂の上に半身を起こした女の瞳は、全ての光を飲み込むような闇の色をしていた。
「案じる必要はない。お前は出会い、戦い――そしていつかは死ぬだろう」
 濡れたような髪が風に舞った。一片、切り裂いたように紅い唇が艶然とした笑みを象ると、そっと砂を掬い上げた指が目の前に差し出される。
「人は死ぬ。その理を覆すことは出来ない。お前も死ぬ。お前の探し続けるものも、お前を愛するものも、お前が愛するものも死ぬ」
 さらさらと砂が風に舞った。
「目覚めなさい。お前は知らなければならない」
 フォルマティオは呆然とその微笑を見つめた。
「そして、世界を知ったときに、お前は自分の生きている意味を知るのだ。それが、お前の死となるだろう」
 赤い唇が確かに自分の名前を綴ったと、そうフォルマティオは思った。
「うっ」
 激しく風が渦巻き、女の髪が炎のように舞った。硝石を煌かせて風が吹き止んだとき、既に女の姿はなく、月の青い光に照らされた無限の砂丘が目の前に広がっていた。ただ、女の姿があった砂の上に、ポツリと赤い砂漠の紅玉が煌いていた。

 ――案じる必要はない。人は皆、迷い人となり、己の宿命を捜し求め続けるのだから。

 さらさらと静かな流砂が紅玉を埋め、全てを多い尽くした砂丘の向こうに、砂漠の太陽の兆しが僅かに青い闇を裂いて漂い始めていた。


   了


 あきこサンから111111HITの記念にいただいてしまいマシタ〜♪
 愛するあきこサン(笑)から「何がいい?」と聞かれ、「え〜、そんな、いいですよぉ」なんて一言も言わず、速攻で「じゃあ、フォルマティオとレヴァリスの共演」とお願いしたアホはこのワタシです(爆)<フォルマティオは、あきこサンの作品『eclipse〜11番目の神〜』に出てくる、おっとこ前なキャラです。
 あきこサンの書くレヴァリスは、強い女性でとってもカッチョイイっス☆ 一部で「最近、レヴァリスは弱いオンナになった」と言われていたり(<一部っていうか、1人だ(笑))しますんで、作者のワタシが「やっぱ、レヴァリスはもっと強くないと!」と思わずにはおれないくらいカッコイイです。
 しかも、情景美麗だし! フォルマティオ、たじたじだし!(大笑)

 あきこサン、素敵なプレゼントをありがとうございました!(T-T)

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